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「大富豪、時々探偵。 ~天使の素顔~」09
「春日さん、いいですか、この通りにやるんですよ?そうすれば、井川和香は貴方のものになる。わかりましたね?」
そう言って、あの探偵さんに何度もこの日の練習をさせられた。おかげで、やることの一部始終はもう頭の中に叩き込まれている。
指定されたカフェに行くと、探偵さんが言っていた通り、井川和香は隅のテーブルでポツンと俯いていた。和香が謎の理由で会社を辞め、重役との婚約も破談になったと噂で聞いてから、久しぶりに見た和香の姿だ。どこか悲しげな印象を受けるが、それでも、薄いブルーの清楚なブラウス、快活なフレアーの膝上スカート、スカートに合わせた水色の可愛らしいパンプス、そんないでたちが眩しい。そこから覗く美脚はひときわ輝き、店内の男達の視線を釘付けにしている。キリッと背筋を伸ばし、涼しい瞳で前を見つめる姿は、近寄りづらい感覚さえ覚える。まさに天使だ、と春日は嬉しくなった。
何とも不自然な演技で、春日は和香の隣りの席に近づいた。
「あれ、井川さん…井川和香さん…ですよね?」
「あ、あの、確か営業二課の…」
「春日です。春日正男。」
「ああ、そう、春日さん。ごめんなさい、お名前、出て来なくて。」
「そんなことより、会社お辞めになったんですよね?ここで何してるんです?」
春日は精一杯、練習した通りに演技を続けた。
「あ、あの…人を待っているんです。ここで出会った人を。来ないこと、わかっているんですけど…」
「あ、それ、わかります。僕も来ない相手をずっと待ったことありますから。」
「春日さんも、ですか?」
「はい。あ、そうだ!ずっと一人じゃ退屈でしょう?これからは僕がずっと付き合ってあげますよ!」
「そ、そんな、どうして…」
「嫌ですか?だったら、こんな退屈なことは止めて、僕と食事にでも行きましょうよ!食事に付き合ってくれないんだったら、僕、毎日ここに来て、井川さんと一緒にその人のこと待っちゃいますよ?そんな退屈なことに僕を巻き込むのは嫌でしょ?僕も嫌だなあ!だから食事に行きましょう!」
努めて明るく自然に、とは探偵さんから言われたが、どうしても緊張で声が上ずってしまう。“がんばれ!”春日は心で自分にゲキを入れた。
春日の方を見て、驚いた顔をしていた和香が、プッと吹き出した。
「何だか変な理屈で、笑っちゃった。春日さんて面白い人。」
正直、この時の和香は、春日に何ひとつとして男としての魅力を感じなかった。けれども、和香が今まで関係を持ってきた男にはない、何かキラキラしたものが春日にはあった。あのピュアな、少年のような瞳のせいなのかもしれない。その輝きは、和香がしばらく忘れていたもののように思えた。
「和香さん、ここのラーメン、美味しいんですよ!ここのラーメン食べたら、もうすごい元気になっちゃいますよ!さあ、食べて食べて!」
春日の言う食事とは、酒も色気もない、本当に“食事”だった。
「春日さん、本当にありがとう。私みたいな女のために…」
今まで溜め込んでいた空しさが、涙になって一気に流れそうだった。
「さ、食べて食べて!」
「うん…ズル、ズル…春日さん、美味しい。私、こんなに美味しい物食べたの、初めて…」
涙をこらえながら、上品に口を手で隠しながら目を細めて笑う仕草を見て、春日はあらためて思った。
“やっぱり、この人は地上に下りてきた、汚れなき天使だ…”
★ 「大富豪、時々探偵。 ~天使の素顔~」10につづく ★
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そう言って、あの探偵さんに何度もこの日の練習をさせられた。おかげで、やることの一部始終はもう頭の中に叩き込まれている。
指定されたカフェに行くと、探偵さんが言っていた通り、井川和香は隅のテーブルでポツンと俯いていた。和香が謎の理由で会社を辞め、重役との婚約も破談になったと噂で聞いてから、久しぶりに見た和香の姿だ。どこか悲しげな印象を受けるが、それでも、薄いブルーの清楚なブラウス、快活なフレアーの膝上スカート、スカートに合わせた水色の可愛らしいパンプス、そんないでたちが眩しい。そこから覗く美脚はひときわ輝き、店内の男達の視線を釘付けにしている。キリッと背筋を伸ばし、涼しい瞳で前を見つめる姿は、近寄りづらい感覚さえ覚える。まさに天使だ、と春日は嬉しくなった。
何とも不自然な演技で、春日は和香の隣りの席に近づいた。
「あれ、井川さん…井川和香さん…ですよね?」
「あ、あの、確か営業二課の…」
「春日です。春日正男。」
「ああ、そう、春日さん。ごめんなさい、お名前、出て来なくて。」
「そんなことより、会社お辞めになったんですよね?ここで何してるんです?」
春日は精一杯、練習した通りに演技を続けた。
「あ、あの…人を待っているんです。ここで出会った人を。来ないこと、わかっているんですけど…」
「あ、それ、わかります。僕も来ない相手をずっと待ったことありますから。」
「春日さんも、ですか?」
「はい。あ、そうだ!ずっと一人じゃ退屈でしょう?これからは僕がずっと付き合ってあげますよ!」
「そ、そんな、どうして…」
「嫌ですか?だったら、こんな退屈なことは止めて、僕と食事にでも行きましょうよ!食事に付き合ってくれないんだったら、僕、毎日ここに来て、井川さんと一緒にその人のこと待っちゃいますよ?そんな退屈なことに僕を巻き込むのは嫌でしょ?僕も嫌だなあ!だから食事に行きましょう!」
努めて明るく自然に、とは探偵さんから言われたが、どうしても緊張で声が上ずってしまう。“がんばれ!”春日は心で自分にゲキを入れた。
春日の方を見て、驚いた顔をしていた和香が、プッと吹き出した。
「何だか変な理屈で、笑っちゃった。春日さんて面白い人。」
正直、この時の和香は、春日に何ひとつとして男としての魅力を感じなかった。けれども、和香が今まで関係を持ってきた男にはない、何かキラキラしたものが春日にはあった。あのピュアな、少年のような瞳のせいなのかもしれない。その輝きは、和香がしばらく忘れていたもののように思えた。
「和香さん、ここのラーメン、美味しいんですよ!ここのラーメン食べたら、もうすごい元気になっちゃいますよ!さあ、食べて食べて!」
春日の言う食事とは、酒も色気もない、本当に“食事”だった。
「春日さん、本当にありがとう。私みたいな女のために…」
今まで溜め込んでいた空しさが、涙になって一気に流れそうだった。
「さ、食べて食べて!」
「うん…ズル、ズル…春日さん、美味しい。私、こんなに美味しい物食べたの、初めて…」
涙をこらえながら、上品に口を手で隠しながら目を細めて笑う仕草を見て、春日はあらためて思った。
“やっぱり、この人は地上に下りてきた、汚れなき天使だ…”
★ 「大富豪、時々探偵。 ~天使の素顔~」10につづく ★
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